善福寺手帳

ぜんぷくじてちょう

ミッシャ・マイスキーが三宅一生さんを追悼

世界的デザイナーの三宅一生さんが今月5日、84歳で亡くなったとのこと。

三宅一生さんデザインの服のファンの一人で、ステージでもよく着ていたチェリストのミッシャ・マイスキー(74)がインスタグラムで追悼の書き込みをしていました。

日本のファッションデザイナー、イッセイ・ミヤケが亡くなった。
彼は広島で生まれ、7歳のとき原爆を生き延び(母親は放射線で亡くなった)、 原爆から77年の日の一日前に亡くなった...
彼と個人的に知り合えたことは幸運だった。素晴らしい芸術家、偉大な人間だった。安らかに。

マイスキーは以前、三宅一生さんデザインの衣装について、美しく個性的でありながら着やすく実用的、三宅一生さんは天才だと、2012年夏のヴェルビエ音楽祭のときのインタビューで絶賛していました。

「ラブカは静かに弓を持つ」

音楽著作権管理団体に勤める主人公が、上司からの指示で音楽教室のチェロコースに2年間「潜入」し、 教室が著作権の侵害をしている証拠を集め続けるが、チェロに触れ、講師や教室仲間と交流するうち、主人公の心に変化があらわれて…という「スパイ」「音楽」小説(安壇美緒著、集英社2022年5月刊)。

よく知られているように、2017年、JASRACが音楽教室からも著作権料を徴収する方針を示し、これに対して、ヤマハなど音楽教室団体がJASRACに著作権料徴収の権利のないことを確認する訴訟を起こし、現在も進行中…という背景がある。 裁判では実際にヤマハのバイオリン教室に2年間「潜入」したJASRACの職員が証言に立ったことも伝えられた。

チェロを弾き、しかもこの問題が起こったちょうどその頃ヤマハの教室に通っていた者として、この小説は読むしかないと思ってはいたものの、この題材では爽やかな結末になりようがないだろうと思って、なんとなく読むのを渋っていたところ。 この問題と自分のレッスンとのかかわりと感想は、2017年当時のこの記事に書いたことがある。

小説では、レッスンを重ねるたびに主人公の心が少しずつほぐれていき、チェロが大切な部分になっていくプロセスがいい。 主人公は講師のように「高いところ」にチェロの音を届かせたいと思うようになる。 講師や教室仲間との交流が深まるようすも、自分が教室に通っていた頃を思い出した。

ただ、レッスンそのものの描写では、生徒の演奏に対して講師が「もっと遊び心を」とか「曲のイメージを大切に」といった大雑把なコメントをし、お手本の演奏をしてみせるという流れに、実際のレッスンはそうじゃないんだけどな…と少しもどかしい思いもした(主人公は子供のときチェロを弾いていて、すでに相当弾けるという設定だから違うのかも知れないが)。 たいていの実際のレッスンで行われるのは、もっと細かく、1つの音、1つのシフト、せいぜい1小節のフレーズを取り出しては、もう一回、もう一回と繰り返す、メカニカルな作業だと思うのだ。講師が曲を通してお手本を聴かせてくれるなどということはない。スポーツのレッスンに近いとも言える。このへんが、教室のレッスンで行われる行為が「演奏」と同じだと言われると感じる「違和感」の一つでもあるかも知れない。 rabuka.jpg

後半、2年間の「潜入」期間が終わりに近づき、裁判の証言台に立つ日が迫ってからの急展開にはページをめくるスピードを上げずにはいられなかった。最後も救いのある結末でよかった。

エリザベート王妃国際音楽コンクール2022受賞者コンサート

今年6月4日までベルギーで行われていたエリザベート王妃国際音楽コンクール・チェロ部門で1位から3位に輝いた3人のチェリストによる受賞者コンサートのもようが、ARTEのサイトで視聴できるようになっていました。

Königin Elisabeth-Wettbewerb 2022 - Cello : Konzert der Preisträger [ARTE.tv] qecomp.jpg

演奏順に、3位のMarcel Johannes Kits(エストニア)がシューマンのチェロ協奏曲、 2位のYibai Chen(中国)がチャイコフスキーのロココ風の主題による変奏曲、 そして1位のチェ・ハヨン(韓国)がショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。

オーケストラはEivind Aadland指揮のベルギー国立管弦楽団。6月16日にブリュッセルでベルギー国王夫妻も臨席して行われたコンサートの収録で、視聴可能期間は1年間。

最後のアンコールは、3人の受賞者たちのチェロ・アンサンブルで、ジョヴァンニ・ソッリマのTerra Danza。長い期間コンクールで競った若い3人が楽しそうなのがいいです。

オーケストラ本番

土曜日午後、いつもエキストラ参加しているオーケストラの演奏会本番。

毎年この夏公演に向けての練習が進むにつれて暑くなるが、今年は特に、六月に早々と梅雨が開けて暑い日が続き、練習の行き帰りが暑くてちょっと大変だった。今回も、このオケに参加するときはいつもそうしているように、初回から全部の練習に参加した。

曲は、ベートーヴェンの献堂式序曲Op.124、ドボルザークの交響的変奏曲Op.78、そしてメインがブラームスの交響曲第3番Op.90。 どの曲も自分にとっては今回初経験で、トップをというお話はさすがに辞退した。 メインのブラームスだけならともかく、前半の2曲がいずれも演奏機会が少なく、楽譜や演奏例から得られる情報が少ないという難しさもあった。 結局、演奏経験のあるかたが前半と後半で分担してトップをつとめてくれて助かった。

ドボルザークの交響的変奏曲は、チェコ的な素朴な歌の旋律から28もの変奏が次々と繰り広げられる面白い曲で、 ちょうどブラームスが「ハイドンの主題による変奏曲」でやったことをドボルザークがねらって書いたように思えなくもない。 ただ、演奏機会が少ないせいか、出版楽譜の細かな指示の不一致や抜けがあったりして、指揮の先生も苦労されていた。

ブラームスの3番は、チェロにとってはなんといっても3楽章冒頭のロマンチックな旋律が聞かせどころ。 一定以上の世代なら、映画「さよならをもう一度」(1961年、イングリッド・バーグマン主演、フランソワーズ・サガン「ブラームスはお好き」の映画化)で流れていたと言うと通じるが、さすがにもうわれわれの世代でもリアルタイムでは見ていないし、まして若いこのオケのメンバーは全く知らないようだった。演奏上苦労したのは1楽章、それが終わって2楽章の木管を聴くときが、いつも練習で至福の時間だった。

アンコールはドボルザーク「チェコ組曲」のポルカ。この曲の楽譜を渡されたとき、アンコールにしてはしっとりとした曲なのを意外に思ったが、全楽章が静かに終わるブラームスの3番の後のアンコールとして、誰の選曲アイデアだったかわからないけど、なかなかよかったのではないかと思った。

ラヴェンナの100Cellos

イタリア中部の街ラヴェンナで先週16日から19日まで、ジョヴァンニ・ソッリマ率いる100Cellosが博物館や劇場で公演を繰り広げたそうです。今回の参加者の中にはマリオ・ブルネロも。

街に出てフラッシュモブも。あいかわらずすごいエネルギーですね。

日本で100Cellosが開催されたのは、もう3年も前のことになります(2019年8月12日東京・すみだトリフォニー)。 そのときは私は参加しませんでしたが、来日記念レセプションでソッリマに直接会うことができました。

ラヴェンナでは過去にも100Cellosが開催されていて、そのときの様子は実際に参加された安田真子さんが書いておられました [ヨーロッパ弦楽ウォッチ連載第36回 文京楽器 22.05.26]。

この100Cellos、2012年にローマのヴァッレ劇場(Teatro Valle)を「占拠」したのがきっかけで、ちょうど結成10周年でもあるんですね。 このいきさつについてもやはり安田さんが3年前のこの記事で書いておられます。