善福寺手帳

ぜんぷくじてちょう

4年前の「チェロの日」でのこと

きのうミュンヘンARD国際音楽コンクール・ピアノトリオ部門で1位に輝いた葵トリオのチェロ伊東裕さんには、 4年前の2014年2月にあった日本チェロ協会主催第4回「チェロの日」で、ソロ演奏を聴かせてもらっただけでなく、プロアマ総勢数十人のチェロ・オーケストラでは同じパートのすぐ近くの席でいっしょに弾かせてもらったことがあって以来注目していました。

このときのコンサートで、伊東裕さんはベテランの先生方と並んでベートーベンのチェロソナタ3番をのびのびと弾いたのですが、終盤の譜めくりで楽譜を床に落とし、見ているこちらがハッとして、どうするんだろう、と思っていたらそのまま暗譜でむしろそれまでよりもさらにのびのびと弾き切った、ということがありました。 今回のピアノトリオでも長いシューベルトの曲の楽譜をめくるときほんの一瞬ページをつかみそこねたようなシーンがあって、あのときのことを思い出しました。

またその年はちょうどあの記録的な大雪があった年で、チェロオーケストラのトップで弾いてくださる予定だった長谷川陽子さんがリハーサルに間に合わず、 そのためにあいていたイスのことだったか、ソロの代奏のことだったかで、 トップ横近くに座っていた当時芸大在学中の伊東裕さんが、当時芸高生で今年ルトスワフスキーコンクールで1位になった佐藤晴真さんに小声で「行けよ」と言うと佐藤さんが「はい!」と答えるシーンがあって、まるでわれわれがだれでも経験するような学生の先輩・後輩関係みたいだな、と微笑ましく思ったことがありました。 私はたまたまそのすぐ近くで弾く幸運を得て、リハーサル中、ボウイングのことなどで伊東さんや佐藤さんとお話する機会もありました(長谷川陽子さんには本番中にこっそりミュートを渡す役目もやったわけですが)。

もちろんそんなことはご本人たちも覚えていないと思いますが、私のようなアマチュアはそんなこともいい思い出として覚えているもので…とにかく、4年前のあのとき、本当にすごいひとたちのそばでチェロを弾かせてもらっていたんだな、とあらためて思います。

そういえば、次回の「チェロの日」のお知らせも出たようですね。私はまだどうするか決めていませんが、まだ経験したことがないかたはぜひ。

ミュンヘンARD国際音楽コンクールで葵トリオが1位!

ドイツ・ミュンヘンで行われていたARD国際音楽コンクール・ピアノ三重奏部門で15日、3組によるファイナルが行われ、日本の葵トリオ(ピアノ:秋元孝介さん、バイオリン:小川 響子さん、チェロ:伊東裕さん)が第1位に選ばれていました!この部門で日本人の1位は初めてではないかと思います。

大会公式ツイッターで。中央が葵トリオで左から伊東さん、秋元さん、小川さん。

下がファイナルのライブストリーミングの動画。葵トリオの演奏は開始15分くらい(残り時間表示2時間40分くらい)からで、課題曲(H.W. Henze "Kammersonate")と開始30分くらい(同2時間25分くらい)からシューベルトのピアノ三重奏曲第2番D.929。

葵トリオの演奏は、セミファイナルのベートーヴェン、ファイナルのシューベルトを聴きましたが、ひとりひとりの音が魅力的で、この3人が弾くとそれぞれの大曲がみずみずしく聴こえる、そんなすばらしい演奏だったように思います。演奏のあと、ミュンヘンの聴衆からのブラボーも多く、カーテンコールも一回でなく二回も。

ニュースにも出はじめました。

東京芸大のトリオが1位 ドイツの音楽コンクール 日本人の入賞は初 [産経-共同 2018.9.16 07:35]
ドイツ南部ミュンヘンで行われているドイツ公共放送ARD主催の第67回ミュンヘン国際音楽コンクールで15日、ピアノとバイオリン、チェロによる三重奏部門で東京芸術大の大学院生と卒業生の3人が結成した「葵トリオ」が1位になった。同部門で日本からの入賞は初めて。
 奈良県橿原市出身の小川響子さん(26)がバイオリン、同県生駒市出身の伊東裕さん(26)がチェロ、兵庫県西宮市出身の秋元孝介さん(25)がピアノを演奏。シューベルトの曲などを熱演し、会場を沸かせた。
 決勝は3組で競われ、葵トリオを除く残りの2組はともに3位になった。
 1位が決まると、小川さんは「演奏中にアクシデントもあったので信じられない」と笑顔を見せた。伊東さんは「適度の緊張を感じながらの演奏だった」と振り返り、秋元さんは「これをスタートにして、長く3人で演奏を続けていきたい」と話した。...

小川さんの言う「アクシデント」というのは、シューベルトのとき肩当てを気にしておられたことか、あるいは譜めくりのことかも知れませんが、あまり気になりませんでした。むしろ、シューベルトは全体で45分くらいの大曲なので、体力的に最後までもってほしい!と応援しながら見ていました。すばらしい結果になってよかったです!

[追記] 主催元ドイツ・バイエルン放送のニュース。

KLARER GEWINNER IM FACH KLAVIERTRIO(ピアノトリオで明確な勝者) [BR-Klassik 18.09.15]
... Die siebenköpfige, international besetzte Jury unter dem Vorsitz von Amiram Ganz entschied, dass der mit 10.000 Euro dotierte erste Preis an das Aoi Trio aus Japan geht. Kosuke Akimoto (Klavier), Kyoko Ogawa (Geige) und Yu Ito (Cello) überzeugten mit ihrer Interpretation von Hans Werner Henzes Kammersonate und Franz Schuberts Klaviertrio Es-Dur, D 929. Jury-Mitglied Stefan Mendl kommentierte die Entscheidung so: „Das ist das beste Trio, das ich in meinem ganzen Leben gehört habe.“(審査員のひとり、Stefan Mendl 氏はこの結果について「(葵トリオ)はこれまでわたしが聴いた中で最高のトリオだ」とコメントした。) ...

ミュンヘンARD国際音楽コンクール・ファイナル

ドイツ・ミュンヘンで行われているARD国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で13日、6組によるセミファイナルが行われ、日本の葵トリオ(ピアノ:秋元孝介さん、バイオリン:小川 響子さん、チェロ:伊東裕さん)がファイナルに進出していました!

3組によるファイナルは15日の現地16時(日本時間23時)から。葵トリオは演奏順1番で課題曲(H.W. Henze "Kammersonate")とシューベルトのピアノ三重奏D.929を演奏予定。このもようは公式サイト公式Facebookページでライブ中継され、結果は日本時間16日未明にわかるものと思います。

セミファイナルの演奏はライブ動画でまだ見ることができました。葵トリオの演奏は下の動画の16分くらい(残り時間表示2:26:00くらい)から大会委嘱の課題曲。26分くらい(同2:16:00くらい)からベートーヴェンのピアノ三重奏曲Op.70-2、これがいい曲なんですよね…

ピアノ三重奏部門でファイナルというと、おととし同じこのコンクールの弦楽四重奏部門で日本のカルテット・アマービレ(バイオリン:篠原悠那さん、北田千尋さん、ビオラ:中恵菜さん、チェロ:笹沼樹さん)がファイナルで3位に入賞したことを思い出します。ファイナルを楽しみにしたいと思います!

イエローラウンジ東京

来日中のミッシャ・マイスキー(70)がきのう12日夜、東京・お台場で行われたイエローラウンジのコンサートに出演したようすがYouTubeのライブで見られるようになっていました。出演はほかにピアノのアリス=紗良・オット、ジャズピアノの山中千尋の3人がそれぞれ20分くらいずつ、全体で1時間20分ほどのコンサート。

Alice Sara Ott & Mischa Maisky & Chihiro Yamanaka | Yellow Lounge - Live Stream - 12.09.2018, Tokyo [YouTube]

アリス=紗良・オットは39分過ぎから登場して、ドビュッシー「夢」、サティ「グノシェンヌ」1番、ドビュッシー「月の光」。

ミッシャ・マイスキーは54分過ぎに登場して、アリス=紗良・オットのピアノで、マスネ「タイスの瞑想曲」サン=サーンスの歌劇「サムソンとデリラ」からアリア「あなたの声に私の心は開く」、それにファリャ「火祭りの踊り」とそれぞれ3曲を演奏(初めの2曲は右アルバムに所収)。

このイエローラウンジというコンサート、10年くらい前にドイツ・グラモフォン社が若い人にクラブ(語尾上がりの「クラブ」)で音楽を聴く感覚でクラシック音楽に親しんでほしいという趣旨でベルリンで始めたもののようで、ちょうど今年初め、キアン・ソルタニがベルリンで行ったライブを見ましたが、今回、東京でも開催したということのようです。今回、チケット代は5千円だったとのこと(ただし、席はなくフロアに直接座る形式)。

20分、3曲といった短い時間でもその場の空気をつかむアーティストたちはさすがだと思いますし、照明や美術にも最新の技術を凝らしているのは感じましたが(マイスキーの顔は陰になってよく見えませんでしたが)、前半のほうでDJらしき人が何をやっているのかよくわからないし、いつになったらマイスキーが登場するのかもわからないし、もし自分がこの場にいたら、ちょっといたたまれなかっただろうなと思いました。まあ、こういう雰囲気のライブがお好きな人に新しくマイスキーやアリス=紗良・オットを知る人が増えるのであれば、それはそれでいいことだと思います。

ミュンヘンARD国際音楽コンクール

コンクールの話が続きますが、ドイツ・ミュンヘンではARD国際音楽コンクールが行われており、今年はチェロ部門はありませんが、声楽・ヴィオラ・トランペット・ピアノトリオの各部門が今月3日から順次行われていて、ピアノトリオ部門で日本の葵トリオ(ピアノ:秋元孝介さん、バイオリン:小川 響子さん、チェロ:伊東裕さん)がセミファイナルに進出していました。

セミファイナルは、現地13日12時(日本時間13日19時)から6団体の演奏が行われ、このもようは大会のFacebookページを通じてライブ中継されるらしいです。

[追記13日] 大会スケジュールによると、葵トリオはセミファイナル6団体中の4番目、現地13日17時(日本時間14日0時)から演奏の予定。Facebookライブ動画へのリンクはこちら。曲目はベートーヴェンのピアノ三重奏曲Op.70-2と委嘱作品。

ジョルジェ・エネスク国際音楽コンクール

ルーマニアのブカレストで今月1日からジョルジェ・エネスク国際音楽コンクールが行われており、このチェロ部門のファイナルに日本の三井静(26)さんが残っているそうです。

Cello finalists announced at George Enescu International Competition [The Strad]

公式サイトの発表(英語)はこちら。ファイナルに残ったのは、三井さんの他に、中国・エストニア・フランスの若手チェリストたちで、合わせて4人。

ファイナルはきょう11日の現地午後6時(日本時間12日0時)からで、ファイナリストたちはドボルザークの協奏曲またはショスタコーヴィチの協奏曲第1番のどちらかを弾くことになっているそうです(三井さんはドボルザークを選択)。

三井さんは、去年ベルギーのエリザベート王妃コンクールでセミファイナリスト、その後フランスでゴーティエ・カプソンのマスタークラス・シリーズに選ばれるなど、着実にヨーロッパで経験を積んでおられるので期待したいです。

このコンクール、前回はライブ中継が見られましたが、今回は情報があったら追記します。

[12日追記] ファイナルの結果、1位Marcel Johannes Kits (Estonia)、2位Yibai Chen (China)、3位Stanislas Kim (France) 、三井さんは4位。

先週の練習

日替わりエチュード、シュレーダー159番(デュポールの7番)、ポッパーの16番、10番、5番、1番。

このところの毎日の練習は、スケールのあと日替わりエチュード、それからオーケストラの曲で気になった箇所の部分練習、 時間があればバッハの組曲4番のプレリュードかサラバンド(またはその両方)を弾いておしまい、というのが定番コース。

あとは、ゴーティエ・カプソンの動画を見てフォーレ「夢のあとに」を見返して弾いてみたり、ヨーヨー・マのニュースを見てふと思い立ってバッハの組曲6番のアルマンドを初めて譜読みしてみたり。

ヨーヨー・マはトランプ大統領のためにチェロを弾くか

英フィナンシャル・タイムズ紙のヨーヨー・マへのインタビュー記事が出ていました。 インタビューが行われたのは、今月2日ヨーヨー・マがライプツィヒ・聖ニコラス教会でバッハの無伴奏チェロ組曲全曲を弾いた翌朝、その聖ニコラス教会にほど近いカフェで。

このインタビューで記者は、ヨーヨー・マに多くの人が聞きたいと思っていた質問── でもそれにヨーヨー・マがどう答えたからといってヨーヨー・マのチェロがどう聴こえるかが変わるものではないから重要ではないかも知れませんが──をぶつけてみています。

J.F.ケネディに始まってアメリカの歴代大統領 8人の前で演奏しているヨーヨー・マ。 その彼に「トランプ大統領のために演奏しますか?」。

ヨーヨー・マは最近、世界六大陸の36ヶ所でバッハの無伴奏全曲を弾くツアーを開始したばかり(ライプツィヒはその3ヶ所め)。 今年のダボス会議では「分断された世界にこそ文化が重要」と説き、 彼の日頃の行動や考え方から、トランプ大統領の発言や政策を批判的に見ているであろうことは明らかでしたが、 直接批判的な言動をしたことはありませんでした。

トランプ大統領のためにチェロを弾くかという質問に、初めヨーヨー・マは答えをはぐらかすのですが、さらに記者が踏み込んで (ヨーヨー・マがいうようにバッハがわれわれにいろいろなことを教えてくれるのなら) 「トランプ氏がバッハから謙虚さを学ぶかも知れないのではないですか?」と迫ると、

"Would I play for him on his deathbed? No,"
(彼の死の床で弾くか?って、それはないね)
いつものように冗談で返すヨーヨー・マですが、ブラックな冗談はちょっとめずらしい。さらにつづけて、
"I operate on the premise that absolutely anybody can change, and I also recognise that it’s possible that somebody may never change ...  I also think, just by observing the performance arts world, huge ego is very often matched by huge insecurity."
(ぼくは、だれでも必ず変わることができるという前提を置いているけど、 一方で決して変わらないひともいることも認識している ... これは音楽界・芸能界を見ていてのことだけど、肥大化した自我には肥大化した不安定さが伴うものだと思う。)

これを見ると、ヨーヨー・マがトランプ大統領のために演奏するということはなさそうですね。

全米ベスト4

錦織圭選手が全米準々決勝でチリッチを破ってベスト4!

この大会、錦織選手はサーブとバックハンドはふだんの力が出ているものの、フォアハンドはまだ本来の力ではない。 それでもよくここまで勝ち上がり、よくあのチリッチによく勝ったと思う。

錦織選手ももう28歳。このところ錦織選手の試合を見るのがちょっとつらかったのは、28歳の選手に残されたチャンスが刻々と減っていることの自覚がどれほどあるのだろうか、と見ていていらだつことが多かったからだった。それが少なくともこの大会ではベストのプレーではないなりに、ベストではない自分を受け入れ、自分とうまく付き合えているように感じる。

準決勝のジョコビッチとの戦いは厳しいものになると思うが、健闘を期待したい。 女子では大坂なおみ選手もベスト4に進出した。四大大会大詰めまで応援する選手が勝ち残っていることがどれだけ楽しみなことか、久しぶりに思い出した。

[9日追記] 錦織選手は準決勝でジョコビッチに3-6 4-6 2-6で敗戦。一方、大坂なおみ選手は勝ち進み、決勝 6-2 6-4でセリーナ・ウィリアムズに勝って全米初優勝!

ドボコンでサプライズ

ヨーロッパの若手演奏家たちが集まったグスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団のツアー公演のリハーサルでのひとコマ。 ソリストとして招かれたゴーティエ・カプソンがドボルザークのチェロ協奏曲の出だしを弾こうとしたら、チェロセクション全員が…

[ゴーティエ・カプソンのフェースブックより ※音が出ないときは右下のスピーカーをONに]

若いオーケストラとゴーティエ・カプソンは、この夏いっしょにヨーロッパ各地をツアー公演してきた間柄だし、まだ若いゴーティエ・カプソンだからこのようないたずらも仕掛けられるいい関係だったのだろうと思います。

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そういえば、ゴーティエ・カプソンは来年1月、来日してNHK交響楽団と共演するんですね(第1903回定期Cプログラム、サン・サーンスのチェロ協奏曲)。